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腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは「腎不全」。その中でも末期腎不全(ESKD)に対する在宅での保存的腎臓療法(CKM)について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の岡田絵里先生に、進行に伴う苦痛症状とその対応、患者さんのQOL向上のために検討すべきことを解説いただきます。

はじめに

わが国では、慢性腎臓病(CKD)を有する患者数は約2,000万人(成人の約5人に1人)1)とされ、75歳以上の高齢者における有病率は34.6%(約3人に1人)に上ると推算されます2)。また、ESKDに対して血液透析を中心とした腎代替療法が行われてきましたが、透析導入患者の平均年齢は今や約71歳3)を超え、重度の心不全や認知症など、体外循環がハイリスクとなるケースも少なくありません。

超高齢社会における腎不全治療の在り方が問われており、近年は腎代替療法を選択せず、ESKDに伴う症状緩和を主軸とするCKMを選択する症例も増加しています。本稿では在宅療養下でCKMを選択された腎不全患者さんを対象とした緩和ケアについて概説します。

腎不全とは

疾患の概要

腎不全とは、腎臓の機能が低下し、老廃物や余分な水分、電解質の排泄や調整ができなくなる状態です。高齢腎不全の多くの症例では、糖尿病・高血圧・加齢などを背景に緩徐に腎機能の低下が進行し、ESKDに至ります。このようなケースでは亡くなる1~2ヵ月前まで身体機能が比較的保たれ、末期がんのような病の軌跡をたどることが特徴です。

一方で、腎不全の原疾患や他臓器の併存症によって、腎機能の急性増悪を繰り返しながら段階的に腎機能が低下していく症例もあり、過去の腎機能の推移から今後の経過を個別に予測する必要があります。

進行の特徴と終末期の変化

病期の進行とともに、浮腫、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、皮膚のかゆみ、意識障害などが段階的に現れます。糸球体濾過量(eGFR)が10mL/分/1.73m2未満となり終末期が近づくと、尿量の著しい減少、傾眠傾向の増加、せん妄、けいれん、昏睡といった尿毒症による症状もみられます4)。特にCKMを選択される場合は、終末期に向けて症状のコントロールがより重要になってきます。

ESKDに伴う主な苦痛症状とその対応

米国で腎緩和ケアサービスを受けていたESKD患者335 名における5大症状は、呼吸困難(63.7%)、倦怠感(51.8%)、浮腫(48.2%)、疼痛(44.2%)、食欲不振(38.1%)5)であったと報告されています。そのほかの苦痛症状も含め、観察ポイントとケア・対応を表1にまとめました。

表1 ESKDに伴う主な苦痛症状と観察ポイントおよびケア・対応

苦痛症状観察ポイントケア・対応
呼吸困難・浮腫・体液過剰   ・血圧
・体重
・SpO2
・塩分制限
・在宅酸素療法
・ベッドのギャッジアップ
・顔に冷風を当てる
・利尿薬の増量
・薬物治療:オピオイド、抗不安薬(オピオイド無効時)
倦怠感・高度の貧血や心不全の有無
・薬剤性(抗ヒスタミン薬、オピオイド、睡眠薬など)
・抑うつ
・貧血の是正(薬物治療:腎性貧血治療薬〔ESA やHIF-PH 阻害薬など〕)
・原因薬剤の減量・中止:抗ヒスタミン薬、オピオイド、睡眠薬などによる倦怠感の可能性を検討
・抑うつがある場合は抗うつ薬を検討
疼痛・NRS(数値的評価スケール)
・痛みの性質
・増悪寛解要因
・神経障害性疼痛の場合:薬物治療(プレガバリン、ガバペンチンなど)
・侵害受容性疼痛の場合:薬物治療(アセトアミノフェン、トラマドール、オピオイドなど)
食思不振・
悪心・嘔吐
・食事量
・体重
・排便管理
・食事の少量頻回摂取
・薬物治療:制吐薬、六君子湯など
・リン吸着薬やカリウム吸着薬などの減量・中止の検討
・難治性の場合:薬物治療(オランザピン)
せん妄・
意識障害
・意識レベル
・症状の変動
・羽ばたき振戦の有無
・介入可能な原因検索(電解質異常や感染症、便秘や尿閉など)
・せん妄に対する環境調整(日中の覚醒を促す、眼鏡や補聴器の適正使用など)
・活動性せん妄に対する薬物治療:抗精神病薬(クエチアピン〔糖尿病患者では禁忌〕、ペロスピロンなど)
・臨死期における尿毒症による意識障害は苦痛がなければ介入を行わないことも多い
皮膚掻痒・掻把痕
・皮膚乾燥の確認
・スキンケア、保湿、天然繊維の肌着の使用
・薬物治療:抗ヒスタミン薬、ナルフラフィン(抗ヒスタミン薬が効きにくい場合。保存期CKD では適応外)
むずむず脚症候群・日内変動の確認
・鉄欠乏の有無
・薬剤性(抗精神病薬や抗うつ薬など)
・カフェインやアルコール摂取を控える
・鉄分の補充
・薬物治療:プレガバリン、プラミペキソールなど
便秘・便の性状
・薬剤性(リン吸着薬、カリウム吸着薬など)
・原因薬剤の減量・変更:リン吸着薬、カリウム吸着薬
・薬物治療:上皮機能変容薬(ルビプロストン、エロビキシバット)、浸透圧性下剤(ポリエチレングリコール)など
⇒腎機能低下患者では酸化マグネシウムを避ける(高マグネシウム血症への注意が必要)

※腎不全におけるオピオイドの使用
モルヒネは、有害な代謝産物(モルヒネ-3-グルクロニド〔M3G〕)が蓄積し、せん妄やミオクローヌスなどを起こしやすくなるため、eGFR30mL/分以下の場合、使用は原則禁忌とされています。オキシコドン、ヒドロモルフォン、トラマドールは、減量して慎重に投与します。ブプレノルフィンやフェンタニルは腎不全でも比較的安全に使用可能ですが、いずれも内服薬がない点に留意する必要があります。非がん進行性疾患の呼吸苦に対するオピオイドの使用は知見に乏しく、現状はエビデンスが担保されていませんが、一定の効果が得られることもあり、使用を検討します。

患者さんのQOL向上のためにできること

ポリファーマシー対策

腎不全患者さんは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患などの多疾患並存を抱える場合、内服薬が多くなる傾向にあります。ある研究によると、CKDステージG4(腎機能が高度に低下した状態)およびG5(ESKDの状態)では、6剤以上のポリファーマシー状態にある患者さんの割合が、それぞれ84%、74%であったと報告されています6)

CKMを選択される患者さんにおいては、長期的な生命予後よりも、QOLや短期予後をより重視した処方設計が望ましい場合もあります。例えば、便秘になりやすい症例や服薬アドヒアランスに懸念がある症例においては、血清リンのコントロール目標は緩くし、リン吸着薬の減量・中止を検討してもよいかもしれません。高カリウム血症を呈する症例では、アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムを使用することで、カリウム吸着薬による便秘を避けられる可能性があります。

個々の症例に応じて処方を見直し、患者さんの治療負担の低減を図ることができるとよいでしょう。

食事制限は患者さんのQOLを重視

CKDの食事療法に関しては、一般的にタンパク・リン・カリウムなど、多くの制限が提示されます。しかし、高齢CKD患者さんではそもそも食事摂取量が低下し、サルコペニアの合併例も多いことから、栄養指導にも留意が必要です。

『CKD診療ガイド2024』(日本腎臓病学会編)では、サルコペニアを合併したCKDでのタンパク制限の緩和についても言及されています7)。食事はQOLに直結する人生の愉しみでもあり、高齢CKM症例における食事制限に関しても、主治医と相談の上で適宜緩和を検討すべきでしょう。

アップデートしておきたい知識

腎不全の緩和ケアに対する関心の高まりから、令和 8 年度診療報酬改定において緩和ケア病棟の対象疾患として新たに腎不全が加わり、また腎臓病対策推進の一環として緩和ケア提供体制の整備を含めた診療加算が新設されました8)

在宅で受けることができる透析治療として、腹膜透析(PD)への関心も高まっています。血液透析と比較し、通院負担や体外循環による心血管系の負担が少ないことがメリットである一方、高齢患者さんでは自身での管理が難しいケースも少なくありません。訪問看護師によるサポートで在宅PDを導入・継続するassisted PDの広がりが期待されます。

本文で使用した略語一覧(本文登場順)
ESKD:end-stage kidney disease(末期腎不全)
CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)
QOL:quality of life(生活の質)
CKD:chronic kidney disease(慢性腎臓病)
eGFR:estimated glomerular filtration rate(推算糸球体濾過量(値))
SpO2:saturation of percutaneous oxygen(経皮的動脈血酸素飽和度)
ESA:erythropoiesis stimulating agent(赤血球造血刺激因子製剤)
HIF-PH:hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)
NRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)
PD:peritoneal dialysis(腹膜透析)


執筆:岡田 絵里
東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所
 
筑波大学医学類卒業後、腎臓専門医・透析専門医・総合内科専門医を取得。在宅医として高齢者腎不全診療にアプローチしていきたいと考えています。
 
編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)日本腎臓学会編:CKD診療ガイド 2024.東京医学社,東京,2024:ⅳ.
2)Kobayashi A,Hirano K,Okuda T, et al.:Estimating the prevalence of chronic kidney disease in the older population using health screening data in Japan.Clin Exp Nephrol 2025;29(3):276-282.
3)正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況.日本透析医学会雑誌 2024;57(12):543-620.
4)鈴木利彦監修,坂井正弘編:腎不全の緩和ケア.東京,南山堂,2025:47.
5)Kwok AO,Yuen SK,Yong DS,et al.:The Symptoms Prevalence, Medical Interventions, and Health Care Service Needs for Patients With End-Stage Renal Disease in a Renal Palliative Care Program.Am J Hosp Palliat Care 2016;33(10):952-958.
6)坂本愛,浦田元樹,岩川真也,他:慢性腎臓病を有する高齢者のポリファーマシーにおける有害事象の潜在的リスク因子に関する検討.日本腎臓病薬物療法学会誌 2018;7(1):13-23.
7)日本腎臓学会編:成人CKD患者への栄養管理.CKD診療ガイド 2024,東京医学社,東京,2024:55-58.
8)厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について 【医科全体版】 令和8年3月6日版.2026:379.
2026/4/27閲覧

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